今日まで2泊3日で京都に行ってきた。滞在最終日の今日はあいにくの雨。ホテルをチェックアウトしたら、土砂降りの雨。英語ではpouring rainと言うのだろうな、と思いながら、雨が止むのを待つ。一瞬タクシーを呼ぼうとしたが、観光、その街をよく知るには歩くのが一番だというわたしのモットーにしたがい、コンビニで長さ65cmのビニール傘を買って出掛けた。
おなかが空いたので、カフェに立ち寄る。それはボゴタというカフェだった。おばあちゃんとその娘の2人できりもりしているみたいだ。テレビでは世界陸上がやっていて、織田裕二がすこしも老けていないこと、世界陸上がオレゴンでやっていること、京都・滋賀の一部の地域に大雨洪水警報が出ていることを知る。オレゴンでは相変わらず女子の走り幅跳びがやっている。京都・ボゴタでは、ひとりの青年がピザトーストとエッグサンドのダブル単品をたのみ、おとなりの夫婦に驚かれる。これでもまだ育ち盛りなのだ。どっちも完食。
雨が止んだのをみて、カフェを出る。もともと二条城に行くはずだったが、予定を変更し(予定は変更し、変更されるものなのだ)、近くの古本屋「泥書房」に向かう。Googleマップを巧みに使わないとそこには辿り着けないというような場所に店を構える泥書房は昨年2月にオープンしたそう。「泥」というのはオーナーがツバメが巣をつくるためにいろんなものをかき集めるというところからつけた名前らしいが、正直よくわからなかった。それもそれで泥のようだったから、べつに気にならなかった。泥書房は短歌の本をおもに扱う。わたしは短歌に疎いので、寺山修司とかしか知らない。現代短歌はおもしろいし、じっさいにやってみたいと思うもののハードルが高い。というより、どこから始めればいいのかがわからない。現代短歌にとってのギターのCコードはなんだろう。
そんなことを思いながら、気になったタイトルの本たちを手に取り、また棚に戻すのを繰り返していたら、若い店員さんが「どこから来たんですか?」ときいてきたので、「静岡からです」と答えると、そのまま話は弾んだ。その店員さんはもともと児童書の編集をしていて、現在は泥書房の2階にある現代短歌の雑誌の編集をしているらしい。短歌も児童書もよく知らないわたしは少々困惑して、言葉に詰まってしまったが、店員さんが紹介してくれた北山あさひの『崖にて』は魅力的だと思った。
わたしはけっこう一期一会みたいなものを信じている人間だから、その店員さんが外出しているあいだに『崖にて』を買ってそのまま帰ろうと思った。あとからその店員さんはわたしがおすすめされた本を買っていって喜ぶだろうという希望を抱いて。しかし、そこにわたしは立ち会いたくない。立つ鳥、跡を残さずのごとく。そしたら、ちょうどその店員さんが帰ってきて、「迷惑じゃないといいんですけど」とわたしにクリームパンをくれた。はあ、すごい瞬間にわたしは立ち会ってしまった!すぐさまわたしは『崖にて』を購入したことを伝え、店員さんの名前を聞いた。聞いたことをすぐ忘れてしまうわたしなので、いまでもどっちだったか忘れてしまったが、この瞬間は『崖にて』とともに保存されるだろう。
京都発ひかり512号東京行き クリームパンのクリームは飛び出し