2023.12

  • 2023.12.31

    今年の現代美術を総括する配信の録画をみる。司会のつくった年表をみながら、登壇者がコメントしていく。司会が司会をしすぎていて、あまり登壇者が話せていなかった。途中で司会が私見を挟み、それもすごく極端なことを言うから、非常に不愉快だった。けっきょく、そこで観るのをやめる。

    昨夜から読んでいた安部公房の『第四間氷期』を読み進める。ディストピア小説を久しぶりに読む。というより、小説じたい読むのが久しぶり。こうやって時間をとってゆっくりと文を噛み締められるのはすごく喜ばしいことだ。しかし、内容は気味が悪く、それも安部の筆致で読み進めることができてしまうから恐ろしい。

    少し散歩をする。外はコートがいらないほどあったかかったけど、妙に風が強かった。近所の本屋さんで今年最後の買い物。気になっていた『自称詞<僕>の歴史』、ワークショップで必要な『女ことばってなんなのかしら?』、そして植本一子の『愛は時間がかかる』と寺尾紗穂の『天使日記』を購入。店主が言うには、本屋を20時から夜中の2時まで空けるらしい。相当な根気だ。ぼくはたぶんそのとき寝ている。帰り際に風で携帯を道路に落とし、すでに傷ついている液晶にまた二つほど傷をつけ、すこしだけ画面にオレンジ色の跡がついた。もはやあんまり関係ない。

    ビールを飲み寿司を食べながら、紅白の最初を観る。知っている人たちと知らない人たちが新しい学校のリーダーズの首振りダンスをする。SUZUKAが司会の有吉にむかって、ファルスの振り付けをするところは象徴的だった。家父長的な有吉にたいしてファルスを突きつける。オトナブルーという曲も和田アキ子の曲のメロディーを借りながら、若い女性の性的なイメージを強化させるものの、もちろんそれは男根の反覆を狙っていて……、非常に複雑な曲だ。それが紅白という男女二元的な番組の冒頭におかれるのはいかにもトラブルメイキングだという感じだ。

    観客のうるささ以外はよかったパフュームのパフォーマンスが終わり、チャンネルを切り替えると、ちょうど久石譲が出ていた。しかも、昨日の自分と同じではダメだ、みたいなかっこいいことを言っていた。普通に沁みた。そのまま第九を聴く。指揮者の下野さんも熱心で魅力的な人だと感じた。

    テレビは衰退した、とか言いながら、けっきょくテレビをみてしまう。それ以外にとくにやることもない。本を読むか寝るくらい。そんなふうに年は自分のうえを越えていく。

    2023.12.31
  • 2023.12.30

    年末らしいことってなんだろうと考える。たぶん年末らしいことって、どのように与えられた暇を有効に使うかと考えにふけているうちに何もできずに、ただこたつのなかで、いつのまにか昼寝を繰り返している、ということなのかな、と思う。その与えられた暇というものも、もともとは自分が欲していたもので、でも実際に到来してしまうと案外つまらなかったりする。暇も暇で良い暇にする必要がある(たぶん國分功一郎的には「退屈」の問題系に入るのだろう)。だからといって、自分にそういう能動性は欠けているので、けっきょくは他者が推奨したコンテンツをただ消費しては、これでいいのか、と考えることしかできない。でも、これしかできないのであれば、これをやるしかない。

    24時間アートラジオで河野咲子さんが朗読していた日記から、気になるものを検索する。とりあえずぼぉーとしていても何も始まらないから、NHKオンデマンドで220円支払って、宮﨑駿のプロフェッショナルを観る。接続過剰なコラージュで、編集者が自分に酔っているような編集ですごく観づらかった。内容的にはいつもの宮﨑といった感じだった。高畑勲との愛憎関係が中心に据えられていて、放映されたときも『君たちはどう生きるか』の大伯父のモデルが高畑だと宮﨑が発言していたことが話題になっていたので、それは知っていたけど、鈴木敏夫の言葉を借りれば、これだけ宮﨑が高畑に「片思い」だったことは知らなかったし、多少編集上の誇張が含まれているのだろう。

    そのまま、今度はNHKプラスの方で『あれからどうした』というドラマの第1話を観る。ちょうど監督集団5月のインタビュー記事を読んだので気になっていたのだ。内容としては、社員食堂でそれぞれの社員が昨日の飲みのあとに何をしたかを語るのだが、その語りの多くは嘘で、語りのあいだに流れる映像が本当に起こったことを映している。嘘の語りと映像のギャップが面白いのだが、ドラマ全体としては同じ構造が繰り返されていて、最後にはオチが用意されているのだけど、どこかインパクトに欠ける。M1グランプリのくらげのネタを思い出す。あれはあれで好きだったけど。

    これも河野さんが言っていたウェス・アンダーソンの短編『ヘンリー・シュガーとワンダフルな物語』をNetflixで観る。アンダーソンならではの入れ子構造がこの作品でも存分に使われており、それぞれの物語もしっかりと強度をもっている。40分弱の短編だったこともあり、すっきりとして観後感(?)があった。ぼくが好きなカンバーバッチが出ていたのもよかった。『毒』という短編もあわせて観た。

    19時からは、西村さんと伏見さんの歌舞伎町のフランクフルト学派の配信を観る。かぶ-1グランプリということで、単行本になっていない批評のナンバーワンを勝手に決めるという企画。紹介された作品のなかで、読んだものも少しあったりして(SAPAとか)、でもほとんどは読んだことがなかったので、明日とかに読んでみたい。西村さんと伏見さんは相変わらずといった感じだった。いいバランスだと思う。

    2023.12.30
  • 2023.12.29

    すごく疲れた。だから、いまこれをすごく疲れている状態で書いている。
    と書いて、わたしは即座に眠りについた。起きて、頭がまだ痛い。とりあえず、みなみしまさんがやっている24時間アートラジオを聴く。もう10時だ。昨日も文章を書きながら、アートラジオを聴いていた。河野咲子さんが日記を朗読するのを聴く。他人が書いた日記をその他人の声を通じて聴くということの不可思議さ。他人の生活が耳を介してそのまま身体に入ってくる感覚は、文章を読むのとはまたちがう気味の悪さがある。でも、その気味の悪さもときには快感として現れることのそれまた不可思議さ。河野さんの日記にある単語たちを適宜調べる。

    昨日買った万年筆にインクを入れる。インクはティッシュ数枚を重ねてもすぐに浸透し、指が結構汚くなったけど、道具で機械をいじったあとのあの良い手の汚さを思い出す。コンバーターというものが万年筆のなかにあって、ボールペンのようにノックするところでインクを吸入していく。ブルーブラックのインクは書いてみると意外とブルーが強かった。正直、ブラックでもよかったのかもしれない。でも、ブルーブラックもそれはそれで趣があって書いていくにつれて徐々に目に馴染んできた。

    外は暖かい。年末ってこんな感じだったっけ、と目を疑うほどの暖かさ。窓を開いて、すこし冷たい風を部屋のなかに入れる。2023年を振り返る文章を書く。それまで書いてきた多くの部分を削り、また多くの部分を書き足す。構成はだいぶ変わった。なんだかわからない文章になってしまったのかもしれないけど、それこそ今年を表しているのだと思う。

    2023.12.29
  • 2023.12.28

    年末最後の東京へ。チャトラコーヒーでコーヒー。「苦め」か「軽め」かと聞かれたので、「軽めでお願いします」。

    友人と東京駅へ合流して、大手町の焼き鳥丼を食べる。そのあと、駅近くのカフェというか公共施設で、窓から東京駅をみながら、友人たちが作業しているあいだ、白ワインを飲み文月悠光の詩集をゆっくり反芻する。

    友人が親戚にプレゼントを買いたいとのことで、銀座へ。ぼくもちょうど自分へのクリスマスアンド誕生日プレゼントを買おうとしていたので、ちょうどよかった。ぼくはロフトで便箋を買い、伊東屋で念願の万年筆を買った。ペリカンに目をつけていたが、けっきょくパイロットが一番手に馴染んだので、それにした。あわせてブルーブラックのインクも購入。明日、インクを入れて書くのが楽しみ。

    2023.12.28
  • 2023.12.27

    今年最後の仕事という仕事を終えた。少しほっと息がつける。

    昼に職場の近くのカレー屋さんでバターチキンカレーを食べる。ランチは食後のドリンクがついてきたので、ホットコーヒーにした。コーヒーは小さなカップに入れられ、けっこう苦く、カレーを食べた直後ということもあり、どこか豊かな納豆の味がした。ここのカレーはどれもハズレがない。

    そのあと、近くの公園をお散歩。日差しがあったかい。犬と散歩する夫婦、煙草をふかすおじいさん、そしてぼくはというとベンチに座りパソコンを取り出し今年の振り返りの文章をしたためる。いろいろと思うことがある。

    熱いお風呂に入りながら、日本酒を一杯やる。徐々に眠たくなる。ドミューンで行ったばかりの坂本龍一トリビュート展の特集がやっていた。毛利さんや蓮沼さんの話が聞きたかったのに、ICCの畠中さんは話しすぎている。質問も導入がとにかく長いからイライラしてしまった。

    明日は東京に行く。新幹線は年末年始で全席指定席になっているかもしれないから早く買わないと、と思っていたけど、のぞみだけの話だったので安心した。こだまには関係がない。

    2023.12.27
  • 2023.12.26

    よく働いた。明日で仕事納め。仕事はずっと続いている感じはするけど、小休止ということで。ゆっくり家でお酒を飲みながら映画を観たり、こたつで寝そべりながら読書したり、温泉に行ったり、そういうことがしたい。待ち遠しい。すこしスマホから離れてみる。世間から、他者から離れてみる。他者の生活との競争や喧騒から身を置く。そして、自分の好きなものの世界に没頭する。そういう時間も必要だ。

    自分のしていることを注意された直後に、それは理不尽だと思い、少し考えてみると理不尽ではないかもしれないが、明らかにその人とコードが異なるのだと感じる。圧倒的な他者性。他者のしていることを注意できる傲慢さ。それをすべて飲み込み、いったん受け入れてみる。そして、考える。そうすると、案外自分が正しいのではないかと思う。「正しい」とは、自分が信じている「正しさ」のことで、その人の「正しさ」ではない。そして、その人の「正しさ」は、わたしが優先する「正しさ」とはちがう。生きるうえで優先するべき「正しさ」というより心持ちをアメリカで働いていたときの上司から学んだ。彼にはほんとうに感謝している。彼のことや職場、同僚のことを思いながら、ホールサム(wholesome)な気持ちになった。心が満たされるような感覚。そういうとき(だけ)にアメリカに戻りたいと思う。

    2023.12.26
  • 2023.12.25

    塾で朝から仕事。クリスマスに勉強する生徒たちを見ていると、クリスマスがこれからもクリスマスであるようにするために、これまで勉強してきたわけではないことを痛感する。

    ワークショップの打ち合わせ。労働したくないこと、学生になりたいこと、来てもらいたい人に来てもらうにはどうすればよいか、いろんな仕方で書くということ、書くことと公開することが隣り合っていることによる抑圧から身体を解放すること、自分の身体に書き込むこと。

    Culture Against Apartheidに署名する。まだ自分は「表現者」ではないかもしれないけど、文化が大事だと思っているし、シオニズムにも反対するから、署名した。署名すると同時に、怒りを感じた。ウクライナのときはあれだけ投稿していた人もいまでは静かにしていることにたいして。イスラエル軍によるパレスチナの人々の虐殺に反対する投稿をただ通り過ぎていく人たちの呑気さにたいして。そして、これらをつくりあげたすべてにたいして。「戦場のメリークリスマス」も皮肉に聞こえる。

    2023.12.25
  • 2023.12.24

    昼からドラマトゥルクミーティングの参加希望理由を書いていたら、クリスマスイブも終わっていた。ぐだぐだ書いているからこうなる。どうして800字の文章を書くのに時間がかかるのだろうか。それは完全にテレビでM1の敗者復活戦から決勝まで全部観ていたからだろう。しかも、サントリー杯もあって、いろいろ観ながらやっているともちろん文章の方は進むわけがない。これだったら短時間で集中した方が書けただろう。いつもこんなことで後悔する。観たかった『戦メリ』や『素晴らしき哉、人生!』も観れず仕舞いだ。明日も朝早くから仕事だ。人生そんなものだ。それぞれの仕方で幸せであればいい。ケーキが美味しかったからそれでいい。みかんもこたつで5個くらい食べた。明日は祖母に電話しよう。

    ちゃんとSNSをみてしまった。

    2023.12.24
  • 2023.12.23

    朝から仕事。けっこう長い時間働いたと思うけど、意外と時間が過ぎ去るのははやい。いつもはあんまり教えない小中学生の冬季講習。テキストを進める。中学1年生の国語の問題で、短歌部の話がでてきて、いろんなところに意識を向けることができるように、いつも座る席を変えた方がいいということを、主人公は「蛙がハエを捕らえるように」という比喩で表すのだけど、そのときはその比喩の意味を理解することができなかった。いまでは少しわかったかもしれない。蛙のようにいろんなところに跳んでは、長い舌でハエを捕らえるように、日々の風景や感情を瞬間的に切り取ることが短歌を詠むにあたって求められる。しかも、蛙は両生類だから陸でも水でも生活できるという柔軟性をもっているがゆえに、さまざまな場所に適応できるスキルをもっている。短歌詠みも同じように、いろんな瞬間を五七五に仕立て上げるという意味で柔軟性を持っていないといけない。ここまで考えられるとなると、素晴らしい作品だと思うけど、それが冬季講習のテキストに収められると、あくまでも「作者の意図」をアイウエのうちから一つ選ばないといけない問題の材料として用いられることになってしまう。

    お昼休憩でラーメン屋に行く。ラーメンと炒飯。量は多かったけど、チャーシュー、メンマ、ネギ、ワカメの入ったシンプルな醤油ラーメンとシンプルな炒飯の美味しさは長く口の中に残っていた。意外と沼津はラーメン屋が多い。

    明日あさってはSNSをみないことにした。好きなひとたちの幸せを祈りながら。

    2023.12.23
  • 2023.12.22

    昼ごろまで寝る。ああ、好きなだけ寝れるのは気持ちいい。二度寝、三度寝。

    昼食をとって、カフェで作業。ドラマトゥルク・ミーティングというドラマトゥルクになりたい人のためのワークショップに応募するための文章を書く。志望動機を書いては、またちがう志望動機を書く。ドラマトゥルクになりたいのかもしれない。久しぶりに「なりたいもの」が自分の前に出てきたと思う。それはいいことだと思う。やはり名前がつけられると安心する部分がある。自分はいろいろなことをやっているし、やりたいと思っているが、それに対して多少の負い目を感じている。一貫性がない、だの、結局は何がやりたいのか、だの、自分の悪魔ともいうべき部分が自分に問いかけてくる。だから、その悪魔を説得させるためにドラマトゥルクという名前はちょうどよかったのかもしれない。なんであれ、自分はドラマトゥルク的なもの(そんなものがあれば)に向いているのかもしれないという小さな希望があるので、それはいいことだと思うし、大切にしたいと思う。

    2023.12.22